【ニゲラ】当惑、ひそかな喜び
2024年03月06日

「……なんだ、そのいかがわしい種は」
キッチンで夕飯の仕込みをしているハボックの背後から顔を覗かせたロイは、物珍しそうに鍋の中を覗き込む。
「いかがわしいって、ちゃんと市場で売ってるスパイスですよ。ブラッククミンっていう、」
「なにっ、これが死以外の全てを治癒できるという伝説の…!」
ハボックが非番のときは夕飯の用意をするのは常だが、ロイが早上がりになるのは滅多にない。珍しく二人で夕食をとれるのだし、あわよくばその後も……と、考えているのは残念ながらハボックだけのようだ。
「ちょっと、あんたの好奇心で夕飯抜きになったら困るんでどいてください」
これだから錬金術師は、と本音が漏れそうになったが、ハボックは既のところで飲み下すのに成功し事なきを得た。